子どもたちも保護者の方々も職員も、全員がとっても楽しみに待っていた子羊の誕生が新型コロナウィルス感染拡大による原則的臨時休園のさなかになってしまうことが残念でなりませんでした。
そんな中、5月13日の朝、サクラが前脚で床をがりがりひっかくなと思っていたら、羊膜が膣から出てきました。お産の始まりです。山にいた全員が、息を詰めて見ていましたが、陣痛微弱と獣医さんがお産を手伝う間に本来なら前脚の上にのせている頭部がずれてしまったことでお産が進まず夕方になり、帝王切開に踏み切ることになりました。山の羊小屋での手術です。テーブルを持って上がり投光器を準備して、職員とたまたま居合わせた何人かの見守る中の手術でした。子羊をとりだしたときには、残念なことに子羊は力尽きていました。
一緒にいた子どもたちにとっては(もちろん大人にとってもですが)、なにがなんだか分からないことや予想もつかないことが次々に押し寄せてきた時間でした。
「サクラがくるしんじょる・・・」「こわい」と言いに来た山組のAちゃん。2時間半にも及ぶ手術の間、じっと見つめてくれていた人たち。動かない子羊を泣きながら洗う私の横にずっと座っていた宇宙組のAちゃん。暗い中、箱に納めた子羊に山の草花で花束を作って入れに来てくれたHちゃん。手術中のみんなの様子を撮った写真を見た友人は、「聖画のようだ。」とコメントをくれました。みんなの心がサクラに集注されていました。
翌朝、前日の一部始終をくみちゃんから聞いた宇宙の子どもたち。今まで子羊の名まえをなかなか決められなったのだけれど、子羊を見た途端、「かわいいなまえがいい!」と、いくつか挙げていた候補の中から「みかんちゃん」に決めることができました。Tくんが「おれ、こいつとあそびたかったな」とつぶやきました。子どもの等身大の言葉だと思いました。
みかんちゃんを洗っていたとき、しっぽを上げてみると、たくさんのウンコがありました。ああ、生きていたんだ、がんばったんだねえ。みかんちゃん、命のすべてをかけてここに来てくれて、ありがとうね。一緒に遊べなかったけど、大きな大きなものをみんなにくれました。
今も、新型コロナなんかなくって、みんながいつものように保育園に来れているときのお産だったらよかったのになと思います。嬉しいことも、悲しいことも、間近で一緒に見て分かち合いたかった。でもこうしてお伝えすることで、一緒に感じあえることでしょう。みかんちゃんがくれた大きなものは、こぐまの日常で生きていきます。
そして今、サクラも元気を取り戻してきています。