2019年10月28日月曜日

山の夕方


 においというのは不思議なものだ。私はこの頃よく番茶を飲むようになった。私が子どもの頃通っていた幼稚園は、毎日番茶を子どもたちの飲み物として沸かしていたので、番茶のにおいはその頃のことを思い出させてくれるのだ。においはまず明るさを思い起こさせてくれる。そしてその明るさのもとでの記憶を芋づる式に引っ張り出してくる。小さい頃に私が感じていたことが生き生きと蘇ってくる。この感じは、今目の前にいる子どもたちが確かに私が小さかった頃に感じていたような事を感じ、考えているんだという確信へとつながっていく。
 この季節、夕方の山はたまらなくきれいだ。山全体が夕方の光に照らされて黄金色に輝く。今日、その光の中で太陽の子どもたちが鬼ごっこをしていた。名まえを呼び合いながら山の林の中や光の中を駆け回っていた。ただただ走り回る姿が美しくて、かっこよくって、しばし見とれてしまった。私はというとそのとき、落ち葉を集めて焚き火をしていた。柿の葉を燃やすと、いい香りが立ち始めた。このにおいも今走っている子どもたちの記憶として残っていくんだろうか、時間が経って大人になって、煙のにおいをかいだとき、この黄金色の光や走っていたすがすがしさを思い出してくれるといいなあと思いながら柿の落ち葉を集めて燃やした。             
今井